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最高裁判所第一小法廷 昭和24年(れ)1839号 判決

主文

本件再上告を棄却する。

理由

弁護人桜井紀上告趣意について。

しかし、第一審判決の認定した事実は『被告人は肩書地において農業に從事して、三重縣聯合農民協議会本村支部書記を勤めているものであるが、第一、昭和二二年三月六日の午後二時頃三重縣一志郡久居町大字本村の農家組合長及び食糧調整委員である小林慶藏外数名が同所の本村神社々務所に集合して供米のことについて話合をしていた席上で一同に対して「われわれ農家は自主的檢見による実収量から一人一日当り四合の保有米を確保してその残りを供出すればよい」旨供米を阻害するようなことをいうて以って主要食糧を政府に売渡さないことを煽動し』というのである。從って被告人の所爲は憲法所定の言論の自由の範囲を逸脱して食糧緊急措置令一一条に該当する犯罪であるといわなければならない。蓋し国民が政府の政策を批判し、その失政を攻撃することは、その方法が公安を害しない限り、言論その他一切の表現の自由に属するであろうが、しかし、現今における貧困な食糧事情の下に国家が国民全体の主要食糧を確保するために制定した食糧管理法所期の目的の遂行を期するために定められた同法の規定に基く命令による主要食糧の政府に対する売渡に関し、これを爲さざることを煽動するが如きことは、国民として負担する法律上の重要な義務の不履行を慫慂し、公共の福祉を害するものであるから、新憲法の保障する言論の自由の限界を逸脱し社会生活において道義的に責むべきものであり、從ってこれを犯罪として処罰する食糧緊急措置令一一條は新憲法二一条の條規に反するものでないことは当裁判所大法廷の判例(昭和二三年(れ)一三〇八号同二四年五月一八日大法廷判決判例集三巻六号八三九頁以下参照)とするところであるからである。されば論旨は採ることができない。

よって旧刑訴四四六条に從い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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